支持層までが深い軟弱地盤の地盤改良はどうする?
小口径鋼管抗工法のメリットとデメリットは?
弱い地盤の上にそのまま家を建ててしまうと、時が進むにつれて地盤沈下が起こり、建物に被害が発生するリスクが増加します。
建物の傾斜、壁のひび、窓やドアの開け閉めに支障などにとどまらず、最悪の場合には建物に居住できなくなる深刻な事態が生じます。
この記事では、軟弱地盤に対する代表的な3種類の地盤改良の方法の概要や特徴、軟弱層が比較的厚く通常の処理では難しい場合に採用される小口径鋼管杭工法について紹介していきます。
地盤改良の種類
軟弱地盤の地盤改良は、既製の柱状の補強材を地中に打ち込む方法と、軟弱な地盤そのものをセメント固化材で固めてしまう方法に大別できます。
軟弱な地盤において建物を安定して支えるため、これらの工法は小・中規模の建築物、戸建住宅にも広く採用されています。
代表的な地盤補強の工法としては、次に示す、1.柱状改良工法、2.小口径鋼管工法、3.表層改良工法の3種類があります。
地盤補強の種類 |
特徴(メリット・デメリット) |
工期 |
費用 |
1.柱状改良工法 |
地中8m程度の深さまで施工可能、一般的には直径60cm程度の範囲 |
1〜2日程度 |
80~120万円程度 |
2.小口径鋼管工法 |
深い層まで施工可能、戸建住宅規模では現実的には地中20m程度の深さ 一般的には鋼管の直径11~14cm程度も可能 |
1〜2日程度 |
150~200万円程度 |
3.表層改良工法 既成コンクリートパイル工法 |
基礎下の表層2m程度に施工 残土が多く発生 |
1〜2日程度 |
80~150万円程度 |
※費用について、地盤状況や建物の大きさ、延床面積によっては本数・地盤補強の深さなどが異なり、また本数や深さは、各工法の特徴にも関係します。そのため費用は目安となります。
地盤改良工事が適切でない場合に起こるトラブル
地盤改良工事の知識や情報が不足していると、確実な地盤改良ができず地盤に不適切な地盤改良工事となってトラブルが起きてしまいます。
トラブルに繋がる地盤とは、軟弱層の厚さが異なる地盤や谷底低地など腐植土が堆積する地盤などがあります。
改良体の下部に軟弱地盤が分布すると、地盤改良をしても不同沈下のリスクを抑えることはできません。
地盤改良工事を進めるにあたって重要なのは、念入りな地盤調査です。
また、地盤構成に変化がある場合、改良体が支持層に達しない、周面摩擦力に差異が生じるなどの影響から建物にトラブルが生じることがあります。
地盤沈下を起こしやすい地層
建築物を支えきれずに沈下を起こす可能性が高い地盤が軟弱層です。
切土や盛土が混在した造成地や埋立地、河川や水田の跡地などがこれに該当します。軟弱地盤に建築物を建てた場合には、建設後に地盤が沈んで不同沈下が発生したり、地震の際には大きく揺れて液状化したりして、建物に大きな被害が発生する危険性が高いので注意が必要です。
セメントが固まらない土壌
セメント系固化材を使用して地盤改良をする際に、固化しにくい土壌は様々ありますが、特に気をつけなければならない土壌は、腐植土の火山灰質粘性土(いわゆるローム)です。
その理由は、セメントは強アルカリの環境で固化が進むので、酸性を示す土はセメントの固化を妨害します。また、有機物や粘土鉱物の影響で固化が遅れたり、阻害されたりします。
火山灰質粘性土
火山灰質粘性土は我が国のいろんな地域に広く分布しており、丘陵地や台地に分布します。一部の粘土鉱物により固化反応が阻害されます。また、火山灰質粘性土の上には有機物を多く含む黒ボクが堆積しているので、ことが多く、やはり一部の有機物が固化を著しく遅延させることがあります。
丘陵地や台地の隅では、がけ崩れが生じやすく、火山灰質粘性土や黒ボクが雨水と一緒に再堆積し、軟弱地盤を形成することから地盤改良工事を行うことも多く、固化不良を生じることも多いようです。
腐植土
腐植土は、谷底低地などの低湿地に堆積しています。植物の遺骸が混入している土を有機質土と分類し、未分解の繊維質が残存しているものを泥炭、分解が進むと黒泥と分類されますが、これらをまとめて腐植土と呼んでいます。
腐植土に含まれる有機物によって、固化し難く強度も出にくい。また、水を含む割合も他の土と比べて高いのが特徴で、これも強度が出にくい要因です。
セメント系の混合処理工法で「固化しにくい」、「強度がでない」では、地盤改良工事の実施は無駄なものになります。「有機質土用」「火山灰質粘土用」のセメント系固化材も用意されていますが、 事前の配合試験で固化状況を確認することが肝要と考えます。
改良体
支持層の起伏次第で改良体が支持層に届かない
地盤改良工事で施工する際、建築物を支えられるだけの強度を持つ支持層までの打設することがあります。
土と改良体の接触によって生じる摩擦力と支持層で受け持つ支持力で建物を支え、不同沈下を防止します。
しかし、支持層の分布深度に変化がある場合、同じ長さの改良体を打設しても、片方は支持層まで届き、もう片方は支持層まで改良体が届かないことがあります。
改良体が支持層まで届いていないと支持力が小さく、浅い深度に支持層が分布し改良体が支持層に到達している部分は支持力が大きくなり、不均衡が生まれます。支持力に大きな違いが生じて、建物は、支持力の小さい方へ沈下が起こります。
小口径鋼管工法とは
支持層の分布が深く(小規模な敷地では8m以上)、セメント系固化材を用いた地盤改良工事が施工し難い場合は、軟弱層が地中深く8mを超える軟弱地盤に対して、一般的な混合処理などでは施工しにくい現場などに適した工法です。
支持層まで鋼管を回転圧入させる小口径鋼管工法を採用します。
小口径鋼管工法は荷重を鋼管を介して支持地盤に伝達することで建物を支え、不同沈下を防止する工法です。
さらに、セメント系の固化材を使用しないため現地の土質の種類に関係なく施工が可能で、現地や周辺環境への負荷も抑えることができます。
鋼管の長さは先端の支持基盤で決定されます。
工法を使用する条件は、良好な支持層(戸建住宅などではN値15以上の強固な地盤で、その地盤が2.0m以上続いていること)が分布していることです。
N値は地盤の硬さや締まり具合の指標で、建物規模によって求められるN値は変わってきます。
地盤改良を実施した後に、土地・建物の売却などにより更地に戻す必要が生じることがあります。
その場合、鋼管を撤去する必要がでてきます。地面を掘り、地中に埋めた際の逆の手順で鋼管を垂直に引き抜き、取り除きます。
一度施工してしまうと元に戻すことが難しい表層改良工法や柱状改良工法と比べると、鋼管杭工法は原状回復しやすい工法といえます。
小口径鋼管工法のメリット・デメリット
小口径鋼管工法は、さまざまなメリットを持つ工法ですが、一方、デメリットもあり注意が必要です。
それでは、小口径鋼管工法のメリット・デメリットを見ていきましょう。
小口径鋼管工法のメリット
- 先行掘削作業の必要なく、地盤に鋼管を鉛直立て、回転圧入させて手際よく進められる工事内容です。
言い換えれば、優れた施工性で、短い工期ですべての施工手順を終えることが可能です。 - 支持地盤が起伏していても、適切な施工管理を行えば問題ありません。
- 工事に使用する施工機が比較的小型であるため、一般的な住宅を対象とする地盤改良工事の際にも、しばしば適用されている工法です。
- 鋼管を回転圧入させるため、それほど大きな振動や騒音は発生しません。
- セメント系固化材を使用しないため、固化不良が発生するリスクがありません。
- 鋼管の回転圧入による発生残土はほとんどありません。
小口径鋼管工法のデメリット
小口径鋼管工法は、支持層まで鋼管を回転圧入する工法なので、支持層がなければ施工は不可能です。
同じ条件で工事した場合、柱状改良工法より高額になってしまいます。
さらに、造成して間もない盛土造成地などのように圧密沈下が進行している土地では、土が下がり鋼管が地表に出てしまう「抜け上がり」が起こる場合もあります。
まとめ
小口径鋼管工法は比較的軟弱地盤の深く、通常の混合処理では施工が難しい場合などに土地に適した工法です。小口径鋼管工法の概要や必要なケースメリット・デメリットについて解説しました。
小口径鋼管工法以外に、比較的軟弱地盤が薄い土地に適した表層改良工法、柱状改良工法などの地盤改良工事があります。
建物を建てる前にそれぞれ地盤調査を行いますが、各工法には、それぞれメリットやデメリット、注意点があります。
地盤調査結果に基づき土地の高低差や形状なども考慮に入れながら、どの地盤改良工法を選択するかを決めることが大切になります。