かゆい所に手が届く?深層混合処理工法の適用範囲とその効果について

ソリッドキューブ工法協会コラム工法かゆい所に手が届く?深層混合処理工法の適用範囲とその効果について

地盤改良

まず初めに地盤改良工法とは何かについて簡単に説明します。

建物を計画敷地に建てる際はまず、計画地の地盤調査を行って土質等を調べる必要があります。調査結果から分かる土の種類から質、固さ(支持力)等を把握する事で、計画地盤に対して適正な処理をする事が可能となります。

敷地の状況によっては建物自体の荷重により深刻な地盤沈下や滑り移動を引き起こしてしまう危険性があるので、計画の最初にして一番大事な部分と言っても過言ではありません。

多くの被害を記録した阪神淡路大震災(2000年)の経験から、地耐力に関する部分の建築基準法が改正されました。今では建築前の地盤調査は義務付けられており、建物本体だけでなく計画地の支持力という観点からも安全を保証するようになっています。

深層混合処理工法の特徴

深層混合処理工法とは地盤改良の一つで、別名「柱状改良工事」等と呼ばれています。

セメントスリラー(セメント系の固化材と水を混ぜたもの)と原地盤を専用の機械で混合攪拌する事で文字通り「柱状」の改良体を土中に施工し、地盤の改良工事とする工法です。

浅層と違い、厚い軟弱地盤にも対応可能で、建築物の規模も中層の建物までカバーしています。しっかりとした支持層がなくても柱状改良と地盤の摩擦力で建物の荷重を支える設計も可能で、建物規模に応じた計画が可能です。また、大きな施工機を用いることで深さ50m程度まで施工できる工法もあるそうです。

地盤調査

建築前に地盤を調査する必要があり、計画している建築物や構造体の規模によって調査方法を変更する事で確実かつ信頼の出来るデータの取得を目指しています。調査方法は主に「スクリューウエイト式貫入試験(旧スウェーデン式サウンディング試験)」「ボーリング試験」「平板載荷試験」の3種類が主に使用されています。

スクリューウエイト式貫入試験(旧スウェーデン式サウンディング試験)

戸建て住宅や小規模集合住宅等で用いられる最も一般的な方法です。鉄製の棒が地面に刺さっていく際に必要な荷重とスクリューを回転させた半回転数から N値を推定することが可能です。

計画建物が乗っかる位置の4隅とその中心点、合計5カ所を調査するだけで終わるので時間もあまりかからず、半日程度で完了する事が出来ます。調査価格も比較的安い事も一般的に用いられる理由の一つです。

デメリットとしては土のサンプルが採取出来ない土中のガラや固い地盤にあたってしまうとそれ以上調査出来ない調査する深さが深い程に調査精度が低くなるといった点が挙げられます。

ボーリング試験

マンション等の大規模建築物を建てる際等に用いられるメジャーな地盤調査方法です。また、高層の建物だけでなく、道路や擁壁等、強固な支持が必要となる建造物を計画する際にも用いられています。この調査方法では地盤までの土質のサンプリングをはじめ、地下水の有無や地層構成の把握、地盤の支持力を知るのに必要なN値等を計測する事が可能となっています。

一方でデメリットとしては作業時間の長さや費用、敷地の状態によっては調査出来ないといった点が挙げられます。調査するにあたって約5m四方のスペース内で高さ5m程のやぐらを仮設する必要があるため、既存建築物が計画地にまだ残っていると、調査が出来ない場合があります。

平板載荷試験

この調査試験では計画地に直径30cmの載荷板を設置し、その上から垂直に荷重をかけ荷重に対する載荷板の沈下量を測定し、地盤の支持力を調べる方法となっています。

前述した2つの方法に比べて対応可能な深さが約60cmまでと調査範囲が狭く、試験をした1点の支持力しか調べられません。周囲のボーリングデータなどと併せて、慎重な判断が必要となります。

適用可能/不可地盤

深層混合処理工法を用いて施工が可能かどうかの判断は、主に計画地の土質によって決められます。また、敷地の大きさや高低差の有無等も判断材料の一つとなっています。

適用可能な地盤

深層混合処理工法は不同沈下の可能性がある、主に砂質土や粘性土で構成された軟弱地盤に適した工法と言われています。また、使用する重機も比較的小型のもので施工が可能なため、狭小地であっても搬入さえ出来てしまえば施工が出来る可能性があるのも強みです。

適用不可な地盤

一方で注意が必要な地盤の種類としては腐葉土やローム等、セメント系固化材の固化を妨げる酸性の強い土質には向いていません。固化不良を起こす可能性が高く、柱状改良体の強度不足によって建物の不同沈下を発生させる恐れがあります。

改良工法の種類

深層混合処理工法の工法には2種類あり、改良体を造成するのに用いる固化材が「粉体」か「セメント系」といった所で違いが出ています。

粉体攪拌方式

計画地に掘削した穴の中に、ビットと呼ばれる先端から固化材の注入が可能な攪拌機材を差し込み、粉体固化材と土壌を攪拌混合させながら引き抜いていく工法です。

スラリー攪拌方式

ビットを用いてセメントスリラー(セメント系の固化材と水を混ぜたもの)と原地盤を攪拌混合しながら柱状の改良体を造成する工法です。

手順

現在、スラリー攪拌方式が主流となっています。ここでは、スラリー攪拌方式の手順を示します。

  1. 所定の位置にビットを用いてセメントスラリーを注入しながら掘削を進めます。
  2. ビットを回転させセメントミルクの注入を行います。
  3. 所定の深さまで到達したらビットを回転させながら引きあげます。
  4. 管理装置で、スラリー量、回転数が規定を満足しているか確認します。
  5. 柱状頭部の処理と高さの確認を行い、完了です。

他工法との比較

メリット

表層改良よりも深い範囲の改良が可能で、鋼管杭よりも比較的に安価で計画地の地盤改良が行えるという事で数多くの現場で採用されています。工法によっては最大で50mまで可能なところもあるくらいで、幅広い範囲での改良が可能な工法となっています。

また、支持層が無い敷地でも施工する事が可能といった点も挙げられます。

デメリット

セメント系固化材を使用するため、計画地の地質によっては上手く固まらずに固化不良を起こしてしまう可能性があります。そして柱状の改良体を土中に残る形となるため、施工後の地盤の原状復帰が難しいという事で土地の売却価格に影響が出るという点も無視出来ないデメリットとなっています。

まれに発生する六価クロムもデメリットの一つです。改良体が固化不良を起こしてしまった際に六価クロムが溶出してしまう可能性があるため、事前の地盤調査と固化材の選定が重要となってきます。

まとめ

表層・浅層混合処理工法では深さが追い付かず、かといって鋼管杭等の高コストな地盤改良を出来るほどの余裕がない土地でも対応が可能な深層混合処理工法は、日本各地で用いられているメジャーな工法です。

そこまで大きくない、中規模の建造物のための地盤改良に適しており、短期間で比較的安価に行える工法は他に無いでしょう。勿論土質によっては施工が出来なかったりとデメリットも存在しますが、それでも幅広く柔軟に対応が可能な工法となっています。