変動係数について

変動係数は、標準偏差を平均値で割った値のことです。標準偏差と同様にデータのばらつきを把握できる指標の1つで単位はありません。標準偏差は平均値との差を示しますが、平均値の大きさが異なるデータ同士を比べる場合、そのまま比較することができません。

そこで用いられるのが変動係数です。標準偏差を平均値で割ることで、「平均に対してバラツキがどれだけの割合を占めるか」を相対的に評価できます。

例えば、社員の身長と体重を調べ、変動係数を計算してみました。

結果のみを表.1に示します。

変動係数は、身長0.058、体重0.097と身長より体重のばらつきが大きいといえます。変動係数は、平均値が異なる集団、データ単位の異なる集団のばらつきを比較する場合に用いられます。

※画像は生成AIによるイメージです

※明確な基準はありませんが、変動係数が1以上は「大きい」、0.5~1は「やや大きい」といえます。

 

・変動係数の求め方

変動係数(CV)は、標準偏差を平均値で除すことで求められます。

・標準偏差の求め方

標準偏差は、データのばらつきの大きさを見る統計的方法です。平均値を基準としてプラス方向、マイナス方向にそれぞれデータがどの程度広がっているかを数値化したものです。

標準偏差は次式より算出できます。

変動係数の用途

変動係数は、このようにデータのばらつきを相対的に評価できる指標であるため、単なる統計分析にとどまらず、さまざまな実務分野で活用されています。

たとえば、

・物流や在庫管理:需要のばらつきを把握し、適切な在庫量を決定するために使われます。

・医療や測定機器の精度比較:検査機器の再現性や測定の安定性を評価する際に、変動係数が役立ちます。

・企業の売上や株のリスク評価:売上の安定性や株価の変動リスクを数値化することで、経営判断の材料になります。

・製品の品質管理:製品の寸法や性能のばらつきを評価し、品質の安定性を確認するために用いられます。

変動係数は、さまざまな分野で活用される汎用性の高い指標であり、データのばらつきを客観的にとらえる上で有効な手段です。

この考え方は、地盤改良工事における品質評価にも応用されています。特に、改良体の強度をどのように把握し、適切に管理するかは、施工品質の確保に直結する重要なテーマです。

 

地盤改良における変動係数と設計基準強度について

ここで、地盤改良と変動係数についてお話します。

セメント系固化材を用いた地盤改良の設計では、支える構造物の重量によって改良体の必要な硬さは変わります。また、地盤改良の強度のばらつきは工業製品などと比べると大きく、設計上必要とする改良体の強度(設計基準強度)は、このばらつきを考慮して設定する必要があります。

設計基準強度は次式によって求められます。

先にも述べたとおり、変動係数は相対的なバラツキを表す値で、地盤改良では改良体強度のバラツキは工法毎に異なり、それぞれ施工データの蓄積により変動係数を得ています。また、地盤改良では固める対象土によって変動係数が変わる場合があります。

常時の荷重に対する許容圧縮応力度は、設計基準強度を安全率3で除した値としています。ソリッドキューブ工法では、改良体の自重を見込み支持層に加わる荷重に見込みます。

また、実際には固めた地盤(改良体)を支える地盤(支持層)の強度を確認しなければなりませんが、支持層の強度の確認方法はまた別の機会にお話しいたします。

地盤改良の品質検査と変動係数の役割

地盤改良では、改良体の強度が設計どおりに確保されているかを確認するために品質検査が実施されます。品質検査の方法は、一般的に広く用いられている「計量規準型抜取検査」で実施します。

計量規準型抜取検査は、ある製品ロットから抜き取ったサンプルの計量値を取得し、平均値と標準偏差から合否を判定する検査で、最も基本的な抜取検査の手法の一つといわれています。

なお、「計量」とは量ることのできるものを意味し、重さや寸法などの項目が該当します。地盤改良の品質において「計量」は一軸圧縮強さとなり、破壊試験である一軸圧縮試験を行って求めます。

計量規準型抜取検査における合否判定を導く際、JIS規格によって次の二通りの検査手法が定められています。

・品質のばらつきを想定する場合の検査手法(検査手法A:JIS Z 9003)

・品質のばらつきが検査前に想定できない場合の検査手法(検査手法B:JIS Z 9004)

「ばらつきを想定する場合」とは、検査するロッドの標準偏差が既知の場合です。これまでに膨大な検査データの蓄積があって、母集団の標準偏差として扱えるほど十分な裏付けのある場合には、過去データから標準偏差を既知とみなすこともできます。

一方、「ばらつきが検査前に想定できない場合」は標準偏差が未知であり、抜き取ったサンプルから標準偏差を求めることになります。このため標準偏差が既知の場合と比べて、抜き取りサンプル数が多くなります。

標準偏差が既知の場合、すなわち計量値の分布がすでに分かっている場合には、統計量として意味のある平均値を取得できれば良いのでサンプル数を減らすことができます。なお、平均値と標準偏差を扱うことから計量規準型抜取検査は正規分布を仮定できる場合に限ります。

地盤改良工法の場合、抜取コアの一軸圧縮強さの分布は、工法・施工条件・土質に異なります。施工条件ごとによる変動係数を設定することは品質を評価するためには適当ではない部分もありますが、設計や検査を行う上では既存データから抜取コアの一軸圧縮強さのばらつきを整理して変動係数等の実績を把握することが望ましく、ソリッドキューブ工法は建築技術性能証明により改良体コアの変動係数の証明を受けています。これにより品質のばらつきを想定する場合の検査手法(検査手法A:JIS Z 9003)での品質検査の採用を可能にしています。

ただし、抜取検査には、次のような差異が生じることがあります。

 

・施工品質が良好であっても、採取した供試体の一部がたまたま低い強度を示し、検査結果が不良となってしまう場合(生産者危険)

・施工品質に問題があって強度不足の改良体が含まれていても、偶然強度の高い供試体を採取してしまえば、検査を通過してしまう場合(消費者危険)。

 

抜き取ったサンプルの合否判定を行うために不適合品率または平均値から合格判定値と抜取りサンプル数を設定します。これらの設定で上記のような差異を生じることがあります。

改良体の設計では、品質のばらつきを考慮した設計基準強度が設定されるので、品質検査においても品質のばらつきを考慮します。合格判定値の設定については、建築物のための改良地盤の設計及び品質管理指針(日本建築センター・ベターリビング:2018年版、以下センター指針という)に詳細に示されています。センター指針はセメント系固化材を用いた深層混合処理工法・浅層混合処理工法に対するものですが、ソリッドキューブ工法(ブロック状地盤改良工法)においても改良体コアの品質検査に関する項目はセンター指針に準じています。

センター指針の深層混合処理工法の品質検査には検査対象層の考え方がありますが、ソリッドキューブ工法は改良範囲の土を全層にわたり撹拌混合するため、深層混合処理工法のように土質による最弱層は生じません。全層が検査対象層として品質検査を行います。

また、ソリッドキューブ工法は未固化試料からモールド供試体を作製し、一軸圧縮強さを求めています。

実際の合否判定にはボーリングコア試料とモールド供試体の強度比を考慮して行っています。

なお、これらの検査の前提には検査対象群(浅層混合処理工法の品質検査には検査区)を考慮し、ランダムサンプリングを行う必要があります。

 

次にセンター指針に示されている合格判定値の算出方法につき述べます。

※画像は生成AIによるイメージです

合格判定値の算出方法

・検査手法A(標準偏差が既知の場合)

標準偏差が既知の場合、合格判定値は下式から求められます。

「想定した強度の変動係数」とあるように、ここで工法毎の変動係数が品質検査の合否判定に関わってきます。また、検査手法Aにおける「合格判定係数」は抜取箇所数(検査数量)によって表.2のように定められています。

式および表.2から合格判定係数が大きくなる代わりに、抜取箇所数(検査数量)を少なくできます。また、仮に少ない抜取箇所数(検査数量)で“不合格となった場合でも、箇所数を増やすことで検査の信頼性を高めて(合格判定係数を小さくして)、合否判定を行うこともできます。

 

・検査手法B(標準偏差が未知の場合)

標準偏差が未知の場合の合格判定値は下式から求められます。

検査手法Bは、抜取コアの一軸圧縮強さから標準偏差、変動係数を設定するため多くの検査数量が必要になります。原則としてコアの個数nは25個以上必要です。また、この検査における合格判定値は、実際に抜き取ったコア強度の平均値と標準偏差から求まるため、検査値に対する目標強度が事前に明確にできません。このため、配合強度や現場/室内強度比などからコア強度に余裕を持たせないと合格判定値を下回る可能性があります。

 

まとめ

品質管理や統計解析において、データの平均値だけでは実態を正しく評価できません。標準偏差や変動係数は、製品サンプルから抜取った計量値のばらつきを示す指標となります。変動係数は平均値の大きさや単位に影響されず、異なる条件のデータの比較や品質評価に適しています。

品質検査を行う上で、計量値の標準偏差が既知の場合と計量値の標準偏差が未知の場合で品質検査の方法が異なり抜取コア数に差が生じます。地盤改良工法の場合はセンター指針によって、標準偏差が既知の場合と未知の場合で検査手法Aと検査手法Bに分かれ、抜取コア数だけでなく工法の信頼性も変わってきます。

なお、ソリッドキューブ工法は常に技術改善に取り組み、品質の安定性と施工の信頼性を高めデータの蓄積をすすめ変動係数の適切な把握に努めています。

―以上―