縁の下の力持ち!私たちの生活を支える地盤改良工事について
そもそも地盤改良工事ってなに?
我々が生活していく上で必要不可欠な衣・食・住の内の一つ、「住」を建設する際に、建物が沈んでしまったり、傾いたりする事を防ぐために行われる工事の事です。
住宅の基礎となる地盤を、適切な方法で処置する事で、人々の生活、建物、周辺環境の全てを守ってくれている文字通り「縁の下の力持ち」的な存在です。
これから主流な工法の種類やメリット、そのデメリットについて解説していきたいと思いますが、決して優劣を確定するものではありません。
土地の状態や、土層の質によって最適な工法が異なってくるので、一概にどの工法が一番優れていて、逆にこの工法は劣っていると言う決め方は出来ません。あくまで、土地単体で見た時の適正具合で優劣が生じる程度です。
色々な状態と、それに対応する多種多様な施工方法を把握していく事で、地盤改良についての知識をより深めて頂ければと思います。
調査方法
建物を新築する場合には基本的に地盤調査が義務付けられています。
建築基準法の施工令第三十八条と第三十九条がその条文にあたります。また、住宅瑕疵担保保険といって建物の引き渡し後10年以内に何かしらの瑕疵があった場合に費用を負担してくれる保険があるのですが、こちらも加入時に必ず地盤調査結果を求められます。
地震による液状化現象で、千葉や北海道で建物の沈下があり、瑕疵や費用負担を巡る裁判とニュースが相次いだのはまだ記憶に新しいです。
調査方法には主に2種類あって、ざっくり戸建て用と、それ以上の建物用になります。
スクリューウエイト式貫入試験(旧スウェーデン式サウンディング試験)
一戸建ての建築予定であれば、基本的にはスクリューウエイト式貫入試験(旧スウェーデン式サウンディング試験)が用いられます。
建築予定の住宅の四隅が来る位置と、その中央の5カ所の貫入抵抗を測定する試験で、先端がドリル状になっている鉄製の棒を所定の地面に立てて計測します。鉄製の棒に徐々に重りを載せながら地面にねじ込み、250mm貫入するまでの重さを記録し、さらに合計で100kgの重りを載せても進まなかったら再度ねじ込み、250mm貫入させるのに要した鉄棒の半回転を記録します。
このようにして得られた荷重や半回転数から地盤の強度を推定する事が可能なのです。
ボーリング試験
3階以上の建物やマンション等、より重量が重くなる建物を建設する予定には支持層と呼ばれる頑丈な地層に達するまでの間にどんな土があるのかを調べる方法を用います。
“ボーリング”とは「くり抜く」という意味で、文字通り筒状になった専用の機器を使って建設予定地の土層のサンプルを取っていきます。こうする事で地盤の強度や安全性に関わる要素である地下水の有無や、土層の性質などを把握する事ができ、より適切な改良地盤の施工が可能となるのです。
地層の種類
基本的に地層は大きく分けて2種類、沖積層と洪積層に分けられます。
水分を多く含んでいて軟弱な場合が多い沖積層と、比較的固く、基礎を設置するのにより優れている洪積層です。特に関東地域では関東ロームと呼ばれる洪積層が有名で、住宅用地盤としては安定した支持力を持っています。
また、それらの層を細かく分類すると「粘土層」「シルト層」「砂層」「砂礫層」に分ける事ができ、それぞれ性質が異なります。特に「粘土層」や「シルト層」は沈下が起きやすく、地盤として非常に弱いので要注意です。
戸建て住宅に用いられる改良工事の種類とコスト、注意点
地盤調査が無事終わり、地盤改良が必要な地盤であった場合には改良方法の選定が必要となります。表層改良工法、柱状改良工法、鋼管杭工法の3種類が主な改良方法として使用されています。
表層改良工法
改良が必要と分かった建設予定位置の土とセメント系の固化材を混合攪拌し、転圧することで地盤を強固にする方法で、深さ2m程度までの改良に対応できます。一般的な戸建て住宅の場合、50万から100万円程かかります。
メリットとして改良工法も中でもかなり安価に施工でき、狭小地にも対応している事が挙げられます。
一方で、勾配のある土地では、施工が難しいことや地下水が地盤改良面よりも高い位置にある場合には使用できないのが難点です。また、施工者の技術に依存しやすい点から、ある程度実績や経験を積んでいる人に仕上げてもらわないと改良地盤の強度にバラツキ等の影響がある事も注意したいポイントとなっています。
柱状改良工法
軟弱な地盤に専用の施工機を用いて、円柱状に改良を行い地盤を強固にする方法です。 戸建住宅の場合は、セメント系の固化材と水を混ぜたセメントスラリーと土を混合攪拌する方法が一般的です。
建物荷重や基礎の形状に応じて、本数と配置を決めます。 戸建て住宅で用いる施工機の規模から施工深さ8m程度で、より深く改良する必要がある場合は、小口径鋼管工法を選択することになります。
費用としては一般的な戸建て住宅だった場合、数十万円程度に収まる事が多いですが、本数や深さによっては100万単位になる可能性も0ではありません。
表層改良よりも深く掘らないといけない、かつ支持層が深い・無い場合でも施工ができる点がメリットとして挙げられますが、改良予定地の土質によってはセメントが固化しきらずに強度が出せない場合があるというデメリットもあります。また、施工後は柱状の改良体が地面内に残ってしまうので原状復帰が難しいという点があります。
将来的に土地を売却したい場合に、改良体を撤去するのにも費用がかかるので残してしまうと、売却価格の低下につながる可能性が高いのです。そして、狭小地や高低差のある土地では施工が難しい場合があり、道路が狭い場合は施工機が搬入できないこともあります。
小口径鋼管
前述した柱状改良でも届かない程深い位置に支持層がある場合に用いられる事が多い工法です。費用はより多くかかってしまいますが、その分深い支持層まで届かせる事が可能なのと、鋼管の強度が柱状改良体に比べて高く、耐震性にも優れている事がメリットとして挙げられます。柱状改良より費用は少し高くなり、一般的な戸建て住宅であれば数十万から数百万円の費用となります。
小口径鋼管は先端にスクリュー状の「羽根」を取り付け、回転ある入する工法が一般的で、高い支持力を得られますが、一方で支持層がないと施工が出来ないことや柱状改良と同様に狭小地や高低差がある土地では施工が難しい場合があり、道路が狭い場合は施工機が搬入できないこともあります。
その他の工法
主要な3種類の工法の他に砕石パイル工法やシート工法、環境パイル工法といった方法もあります。
砕石パイル工法
砕石を利用した工法は、地中にケーシングやオーガーを挿入し引き上げながら砕石に置換る工法です。 引き上げる時に砕石を押固めながら杭状のものを築造してきます。メリットとしては、地中に人工物を残さないことといわれていますが、 施工時に騒音と振動が他工法と比べ大きいことが難点にあげられます。
シート工法
シート工法は浅く掘った地面に砕石を敷き、しっかりと押し固めた状態で上から高強度のシートを縦横に張って改良体とします。
原理として建物をハンモックで吊る状態にして、重量を分散する事で沈下を防ぐものとなっています。狭小地でも対応ができ、大型の重機が不要で、土地の原状復帰が容易な点が大きなメリットです。一方で地盤の状態や、建物の規模によっては使用できないといった制限もあります。
環境パイル工法
環境パイル工法では鋼管杭工法の様に、防腐・防蟻処理を施した丸太材を杭として地面に圧入します。
最大の特徴は、天然素材である木材を使用したエコロジーな工法でCO2の削減が出来ることです。 また、残土処分が不要で、セメント系固化材を使用する工法と比べて工期が短く済みます。
圧入するため他の工法と比べ施工重機が大きくなる場合があり、狭小地では施工が困難な場合があります。
おわりに
いかがでしたでしょうか。地盤改良に関する大まかな流れを最初から最後まで、具体的な方法とコスト等を併せて紹介させて頂きました。
地盤改良工事には事前の入念な調査と、結果に基づいたいくつもの工法が存在しています。一概に改良といってもその性質は様々で、多くの施工会社が日々工夫と技術開発を行ってくれているおかげで費用を下げつつ、より安全な地盤を施工する事が可能となっています。
適切な地盤改良なくして建物は立ちません。
どこかで施工中の現場を見つけたら、少し立ち寄って、工事風景を見てみるのも楽しいかもしれませんね。